2025年大阪・関西万博を巡る建設企業の参画意欲の低さが問題になる中、大手ゼネコンをはじめとした、建設業界を取り巻く環境は昨今、非常に厳しい。
何がそんなに厳しいのか。
1番大きな理由として挙げられるのは、ゼネコン業界が、現在、人手不足と労務費の高騰に直面しているという事実である。人手不足とは、つまり「高齢化」と「後継者不足」である。
これは、もはや、日本全体の課題ともいえるのだが、この課題に、最もダメージを受けているといってもいいのがこの建設業界といえよう。
それに追い打ちをかけるように、2024年問題が襲い掛かり、今年4月から建設業にも、働き方改革が適用され始める。ただでさえ、この人手不足をどうにかしなければならない中、残業時間の上限規制が適用され、物流のスムーズな運搬が困難になることが予想されるのである。
いくつかのゼネコンが合併や連結子会社化を進め、また、ハウスメーカーが中堅ゼネコンを獲得するM&Aなどが増えているのもこれが理由となっている。まさに、生き残りをかけた合従連衡は避けられない状況がある。
実際、大手建設会社で働く建築士何人かに話を聞いてみたところ、皆そろって口にするのが、「現場監督・管理者がいない!」ということだった。これは一体どういうことなのだろうか。
国土交通省の資料によると、一級建築士の高齢化は特に深刻であり、登録一級建築士数役37万人のうち、所属建築士は、約14万人。そのうち、50代がなんと全体の65%を占めるという状態であることが分かった。最も多いのは、60代で、3万7千人ほど。次いで50代が3万5千人。20代ともなると、一千5百人強で全体の1%という驚異的な逆ピラミッドが形成されていることが分かった。
これは、要するに、現場で、経験や知見を持った単なる人手ではない「人財」が、どんどん辞めていかざるを得ないということが起こっているのである。
最近よく耳にする、施工ミスや火災、現場事故などの「技能崩壊」という言葉とも全く関連がないとは言い難いのではないだろうか。
この厳しい状況に対して、まず厚労省では、「高齢者雇用安定法」を制定し、65歳までの雇用機会の確保や、70歳までの就業機会の確保、中高年齢離職者に対する再就職の援助など、シニア人財の活用機会の創出を推進している。
mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1_00001.html
そして、建設業界では、大和ハウスのように、60歳一律役職定年の廃止によるシニア社員の活躍推進、「越境キャリア支援制度」などの人事制度を開始している企業も多い。
また、労働側もこれに比例し、60歳以上の約4割は、働けるうちは働きたいと回答。70歳くらいかそれ以上の年齢まで働きたいと回答している高齢者が多く、65歳以上の就労意欲は、非常に高いことが分かっている。
そうなると、中長期的な視野で、定性的にも定量的にも日本経済を支えるのは、間違えなく、シニア人財であり、この貴重な人財の知恵と経験をどう具現化し継承するかが、大切な社会貢献になる。
だが、一方で、このような人財への配慮が足りない企業もまだまだ多いと聞く。
例えば、よく目にするのは、それまで現場のトップを担っていた人財が、定年を境に、賃金が半分くらいに、目減りしてしまい、何よりもモチベーションがごっそりと削がれてしまうという敬意も感謝もない扱いを受けるということは少なくないようだ。だからこそ、貴重な人財は、Up&Outで、自ら退いてしまうのではないか。
このシニア人財を大いに活用していくために、
- 働き方の柔軟なオプションの用意、
- DXなどの新ツールや技術のリスキリングを提供する、
といったことが必要条件になることは、世間一般で言われていることだが、私は、何よりも大切なのは、彼らがいてくれることが会社にとってのメリットであるという企業側の意思表示を前向にすることと、新しい評価制度のような仕組みではないかと日々考えを巡らせている。また、体力勝負の業務より、頭脳勝負、経験値が活かされる業務を中心に請け負うことができるようなシステムづくりも必要だと考える。
若者とペアで業務を推進し、知見を伝授しながら育てることも楽しめるようなそんな、企業の仕組みづくりに貢献できるようなビジネスを作っていきたいと考えている。
これから、国内のみならず、海外のシニア人財の活用にもヒントを得ながら、どうしたら、建築業界の人財活用問題にWin Winの基盤ができるか、考えていきたいと思う。
以上、現場からお伝えしました。 完 [/]